貞次さんは、秋田が本当に好きだった。魚が好きな人だったので、ハタハタや、きんき、あじのたたき、鮎の塩焼き、サザエのつぼ焼き、岩ガキなど、母が出してくれるご馳走が一番の喜びだったのかも知れない。よく牛肉は仙台牛を出してくれて、ステーキや、ワイワイみんなで囲むしゃぶしゃぶも、秋田でのご馳走の定番でもあった。
母は醤油に砂糖、酒に、ハタハタは味が染みにくいからと決まって、隠し味に味噌を少し入れたたれに付けて焼いてくれた。それがご飯のおかずや、またお酒にもとても合って美味しかった。我が家の味かなと思う。
朝は、筋子、たらこ、鮭(秋田ではぼだっこ、という)、が食卓に上り、新鮮なトマト、焼きナスも決まってでた。おくらや菊のお浸し、味噌汁には、ナス、ジャガイモ、なめこ、などが多かった。
親戚の家にも、貞次さんは好んで出かけた。みんなから歓迎してもらえるから嬉しかったのだろ。枝豆や、自家製の大根やナスやキュウリの漬物も美味しそうに食べていた。
母がいなくなった今でも、親戚の人々との交流は続いている。私がお墓参りで帰省の時には、いつも一緒に墓参りをしてくれて、親せき宅でお茶をご馳走になって帰ってくる。
今回は、この親戚一家と、角館山荘、侘び桜に宿をとり、1泊してきた。
ここは、テレビ等の取材は一切お断りしているので、本当に知る人ぞ知る、隠れ宿的なお宿。私は今回が2度目、息子が2年前に一度私を連れて行ってくれたので、この宿のことを知った。
有名な武家屋敷から車で10分ほど入った、角館の奥に咲く山荘、本当に素敵な所、茅葺きの屋根の門がまず出迎えてくれる。とにもかくにも、インテリアのそこかしこにこだわりが見られ、設計に詳しい貞次さんを1度でもいいから連れてきたかったといつも思う。
秋田角館の伝統工芸品、桜皮細工、曲げわっぱを随所にあしらい、6月の今の季節は、しゃら(夏椿、地元では雪椿と呼ぶそうな)が咲き、軽井沢でもよく見るミナズキの木が、花をつけ始めていた。原生林の中にぽつんと佇んでいるので、テラスからは、笹や、栗の木、名前の分からない木々が立ち、そこに座って眺めているだけで時の経つのを忘れる。空気も清々しく、いつまでもここにいたいと思う。
収穫の秋の、黄金色の稲穂が、黄色いじゅうたんのように広がる景色もいいが、6月のまだ小さな緑色の稲が水田に映える景色もいい、遠くに山々と、そして青空に雲、車窓から、そんな故郷の景色も堪能できた。
出発の日に、新幹線こまちのホームにエスカレーターで上っている時に、ふっと、貞次さんの声が聞こえた。”僕も一緒に行きたかったよ!”と、私の耳元で囁いたのである。
”僕も一緒に秋田に行きたいよ”、それがあって、ここ数日毎晩のように夢に出てきていたのかと、私は思った。
一緒に行っていたのよ、貞次さん、楽しかったね。夕食のご馳走を囲みながら、貞次さんの話が随分出たのよ、一緒に来ているね!と、みんなが思っていたのよ。
秋田弁があったかくて素朴で、まだ耳に残っていて、帰ってきたばかりなのに、また行きたくなった。

緑の田園風景


可愛い秋田犬のぬいぐるみ

テラスが気持ちよかった。クマの心配はなさそう・・

重々しい、桜皮細工の各部屋のドア

桜皮細工をあしらった灯

秋田駅

抹茶羊羹と、ビワ茶で迎えてくれた♡


朝食に出た、豆乳に黒酢、豆乳に林檎ジュースの2種の飲み物。

角館駅前の食堂で、比内鶏の親子丼

稲庭うどん、何にでもいぶりがっこがが付いてくる。
