草津音楽祭は、正式には「草津夏期音楽アカデミー&フェスティヴァル」で、コンサートだけではなく、演奏家を目指す学生さんたちが一流講師によるレッスンが受けられる音楽アカデミーもあり、最終日前日には、コンサートホールで受講生たちによるスチューデント・コンサートも行われている。
そしてウィーンフィルの首席フルーティストや、オーストリア政府から宮廷歌手の称号を授与されているアルゲリカ・キルヒシュラーガーなどによる公開レッスンもあり、講演会にはオットー・ビーバ氏も登場した。
コンサートは夕方16時からなので、午後にはこの公開レッスンや講演会が開催されている。私は、今年は2つほど聴講した。白眉だったのは、キルヒシュラーガーの公開レッスン。
聴講生は3名、その内2名がモーツァルトの曲を選曲して、最初は「エクスルターテ・ユビラーテ」、次が、魔笛から「愛の喜びは露と消え」のパミーナのアリア、3人目は、今やプロで活躍し、新国の舞台にも出演している人気カウンターテナーの村松稔之さんで「魔王」。
受講生たちは素晴らしい挑戦で、さすが選ばれし方々と思ったのだが、その後のキルヒシュラーガーの指導でどんどん益々、見違えるように変化していたのには驚いた。まして村松さんに至っては、既に舞台に立って、実力も認められている歌手、いかにキルヒシュラーガーが、世界的に素晴らしい歌手であるかを証明してくれたような気がした。
また彼女のドイツ語での指導を、ものの見事に同時通訳し、ピアノ伴奏を受け持ったっ方にも注目が集まった。
このピアニストさんは、オーストリア、グラーツ在住の長田陽介さんで、もともとは声楽もやっていて、ピアノ伴奏もこなすという方。こういう方を見つけて草津に呼んでこられる井坂さんにもすごいと感心してしまう。一緒に聴いていたのが田辺秀樹先生だったので、先生のご専門はドイツ語なので、専門用語を交えたキルヒシュラーガーの言葉を的確に即興で通訳して伝える、その正確さ、才能に先生もしきりに感心されていた。後にこの方は、筑波大ご出身で、田辺先生を尊敬していらしたと知り、井坂さんのお計らいでご対面があったそうである。
私には、もう一つ感動的なことがあった。パミーナの 「愛の喜びは露と消え」の アリアは、私はタミーノに語ってもらえず、只々悲しみに沈む心情を歌っものと今までずっと思っていたのだが、キルヒシュラガーさんは最初に「それだけではない、悲しみより、むしろ、タミーナに言葉を発して貰えなかった、どうして??、それは、どうしてなの??、むしろこちらの気持ちの方が大きいはず、それをも込めたものでなければならないのよ」とおっしゃった。
私にとっても、これは、目から鱗で、そうか、そうなんだ、悲しみだけではない、なぜなの?といった信じられないという思い、それを表現してこそ、この永久不滅の名アリアは生きてくるのだと、大きな納得感がありました。このことは、今後「魔笛」のオペラを観る度に、蘇る、大きな収穫であったと思っている。
こんなことも、貞次さんと、話したかったな~。もっともっと、いろんなことを。
今まではそれができていたのに。。。本当に寂しいなと思う。。。